肝血管腫
肝血管腫とは
肝血管腫とは、肝臓内の細い血管が異常に増殖し、無数に絡み合ってできた腫瘍状の塊のことを指します。肝臓は血液が多い臓器であり、大小多くの血管が集まっています。そのため血管の一部が増殖して絡み合い、塊になりやすいとされています。腫瘍状の塊は通常4cm以下で左右の肝臓に多発することもありますが、自覚症状はほとんどなく、人間ドックなどをうけて偶然発見されるケースがほとんどです。
肝血管腫は良性腫瘍で、放っておいてもがん化することはまずないとされています。ただし、肝臓がんとの違いがわかりにくいため、発覚した場合は病院を受診して検査するのが望ましいでしょう。頻度としては一般成人の約1〜5%ほどに認められるもので、30代から50代に多く、女性にやや多い傾向にあります。しかしまれに、小児においても発現するケースもあります。
肝血管腫の主な症状
肝臓は沈黙の臓器ともいわれ、症状が現れにくいことで知られています。そのため肝血管腫でも、ほとんどの場合で無症状です。血液検査をしても正常な数値であり、特に問題となることはなく、基本的に治療を必要するものではありません。ただし、まれに巨大な肝血管腫ができることがあり、その場合は以下のような症状が現れます。- 右側腹部の痛み
- 腹部膨満感
- 食欲不振
- 吐き気
吐き気は、肝臓の機能が低下することで消化不良を起こしたり、体内の老廃物をうまく処理できなくったりすることで起こります。そのほか、巨大な肝血管腫のなかで血栓ができた際は、全身に出血症状が現れ、鼻血が出やすくなったり青あざができやすくなったりするカサバッハ・メリット症候群を合併することがあります。
ほかにも自然破裂を起こすことがあり、その場合は腹痛や貧血、出血性ショック症状などの症状が現れます。
肝血管腫の原因
肝血管腫は、血管の異常増殖によってできることは分かっていますが、根本的な発生原因までは明らかになっていません。しかし、女性での発症が多いため、女性ホルモンとの関連も考えられています。また、妊娠や女性ホルモンのエストロゲンの投与によって、肝血管腫が大きくなることがあり、特に出産回数の多い女性に多い傾向にあります。最近の研究では、赤ちゃんがお母さんのお腹のなかにいるとき、肝臓の血管が作られる際に何らかの原因で異常が起き、血管腫が形成されると考えられています。
肝血管腫の治療
肝血管腫と診断されたら、がんを否定するために病院で超音波、CT、MRIなどの画像検査や、尿や血液による腫瘍マーカーの測定などを行います。肝血管腫を放置したからといって、肝臓がんに移行することはまずありませんが、徐々に大きくなることはあるため少なくとも年に1回は健診、もしくは外来で経過観察が必要です。
まれに10cmを超えるような腫瘍では、破裂や血液凝固異常を生じて出血をきたすことがあるため、外科的切除の適応となることもあります。なお、手術による治療方法は、以下の二つです。
切除手術
切除手術には、十数センチお腹を切る開腹手術と、数ミリの穴を複数あけて腹腔鏡というカメラを用いて病変を取り除く腹腔鏡手術があります。腹腔鏡手術は術後の回復が早く傷も残りにくいですが、肝血管腫の位置によっては適用できないことがあります。その場合は、開腹手術にて治療を行うことになります。カテーテル手術
カテーテル手術は、足の付け根からカテーテルを入れて、肝血管腫に流れる血流そのものを止める方法です。ただし、肝血管腫が破裂した際の緊急対応処置として行われるため、改めて巨大化した肝血管腫を切除する可能性があります。この記事の監修
メディカルクリニックパレ水天宮前 代表
石井 浩統
略歴
2005年3月 福井大学卒業
2005年4月 福井県済生会病院 臨床研修医
2007年4月 福井県済生会病院 外科医員
2010年1月 福井県済生会病院 外科医長
2011年4月 日本医科大学付属病院高度救命救急センター 助教・医員
2024年4月 メディカルクリニックパレ水天宮前開院